昔のテレビに比べて、現在のテレビは映像がとても鮮明です。
音もよりリアルに聞こえるようになり、私たちはその臨場感で映画やドラマを楽しむことができます。
そして、その映像は犬たちにとってもリアルなものとして映っているようです。
SNSを見ていると、テレビに映る動物にさまざまな反応をする犬たちの動画をよく見かけますね。
画面の中の動物を追いかけようとしたり、画面の横に消えていった犬を探して隣の部屋を確認しに行ったり、テレビの後ろをのぞき込んだりする子もいます。
とても微笑ましい光景です。
しかし、その鮮明な映像が、ときに愛犬を警戒させてしまうこともあります。
画面に犬の姿が映ったとき、激しく吠えてしまう子は意外と多いんですよね。
一緒にテレビを見ていると、突然愛犬が吠え始めてびっくりしてしまいます。
できれば、犬の映像が流れても、激しく吠えず、なんとか落ち着いて過ごせるようになってほしい。そう思う飼い主さんは多いのではないでしょうか。
今回は、この「画面に映る犬に激しく吠える」という行動に注目して、どのようなことができるか考えていきます。
「慣れる」とはどういうこと?
テレビに映る犬に吠える行動。これはそのうちに慣れるものなのでしょうか。
ここで一度、「慣れる」とはどういうことなのかを考えておきたいと思います。
同じ刺激に何度も触れることで、その刺激に対して反応が少しずつ弱まっていくことがあります。
これを「馴化」といいます。
一般に「慣れる」と言われるものは、この馴化を指していることが多いですね。
例えば、最初は気になっていた生活音も、毎日聞いているうちにあまり反応しなくなることがあります。
初めて見た物をじっと見ていた犬が、何度も見るうちに気にしなくなっていくこともあります。
このように、同じ刺激に繰り返し触れることで反応が弱まっていく。これがいわゆる「慣れ」と考えると分かりやすいでしょう。
ただ、ここで大切なのは、同じ刺激に触れ続ければ必ず慣れるわけではないということです。
刺激が強すぎる状態で、犬が激しく反応する経験を繰り返していると、慣れるどころか、かえって反応が強くなってしまうことがあります。
これを「鋭敏化」といいます。
テレビに犬が映るたびに激しく吠える。何度も見せているうちに、少し犬が映っただけで過敏に吠えるようになる。犬の鳴き声が少し聞こえただけで画面の方へ走って吠えたてるようになるなんてことになっていきます。
つまり、激しく吠えるほど強い刺激をそのまま見せ続けても、馴化が起こることはなく、むしろ鋭敏化が起こり行動は大きくなるということです。
はじめは小さな刺激から
テレビに映る犬に慣れてもらうためには、犬の映像をまったく見せないわけにはいきません。
見なければ、見慣れることはできないからです。
もちろん、テレビの音や、映像が流れる気配だけですでに吠えてしまう子もいます。そのような場合は、犬の姿を画面に映す前の段階から考えないといけません。
過敏に吠えてしまう子ほど、より小さな刺激から慎重に進める必要があります。
ただ、今回は「画面に犬が映ると吠える」という行動について考えていきます。
まずは、どれくらいの強さで犬の映像を見せていくかを考えましょう。
たとえば、いきなり大きな画面で、大きな音も出して、動きの激しい犬の映像を見せると、その子にとって刺激が強すぎますね。
刺激が強すぎれば犬は当然反応しやすくなります。
ですから、慣れの練習では小さな刺激から見せていくことが大切になります。
ここでいう小さな刺激とは、画面に犬が映っていることには気づいているけど、吠えるほどではない。激しく反応するほどではない。そのくらいの刺激です。
画面を見るけれど体が硬直しないくらいの、呼びかけに反応できる、オヤツを食べられるくらいの、それくらいの反応です。
そのような状態から始められると、取り組みとして進めやすくなります。
刺激を小さく見せるアイデア
最近は、テレビでYouTubeを見られる家庭も多いと思います。
YouTubeを使うと、さまざまな調整を行うことができます。
テレビに映る犬に慣れてもらう練習では、この「刺激を調整できる」という点がとても大切になります。
ここでは、慣れる練習のためにどのような工夫ができるか順番に見ていきましょう。
音を消す
まず考えやすいのは、音を消すことです。
テレビから犬の姿に加えて、ハッハッという息遣い、走る音、鳴き声、唸り声などが聞こえると刺激は強まってしまいます。
最初から音を出して見せるのではなく、音を消した状態から始める方が取り組みやすくなるでしょう。
最初から映像と音をセットで見せる必要はありません。
今後、映像と音をそれぞれ練習して、慣れてきたら組み合わせていくという形にするといいですね。
動きの少ない映像を選ぶ
YouTubeを使う大きな利点は、見せる映像を選べることです。
同じ犬の映像でも、走り回っている犬や激しく遊んでいる犬、こちらに向かって吠えている犬といった映像は、刺激が強くなりやすいです。
最初は、犬が遠くに映っている映像や、ゆっくり歩いている映像から始めると取り組みやすいと思います。
犬の映像なら何でもいいというわけではないのですね。
どの犬が、どのくらいの大きさで、どのように動いているのかによって、犬にとっての刺激の強さは変わります。
画質を下げる
YouTubeでは、設定から画質を下げることができます。
画面の歯車マークから画質を選び、720p、480p、360p、240p、144pというように数字を下げていくと、映像はだんだん不明瞭になります。
特に144pまで下げると、犬の輪郭や細かな動きはかなりぼやけて見えるでしょう。
映像が鮮明すぎると、画面の中の犬の姿や動きがはっきり見えすぎて、その子にとって刺激が強くなります。
最初は144pの低い画質にして、犬の姿がはっきり見えすぎない状態で見せる。そこから落ち着いて見られるようであれば、少しずつ画質を上げていく。
このように、画質を使って刺激の強さを調整することができます。
再生スピードを下げる
YouTubeでは、設定から再生スピードを変えることができます。
犬の映像では、動きが速ければ速いほど刺激は強くなります。
急に走り出したり、飛び跳ねたりするような速い動きは、犬の反応を引き出しやすくなります。
そのため、最初は再生スピードを下げて、犬の動きをゆっくりにして見せるといいでしょう。
再生スピードは0.05倍ずつ細かく調整できるため、その子の様子を見ながら少しずつ変えていきやすいですね。
場合によっては、再生ボタンを押さず、犬が映っている静止画の状態から始めてもよいと思います。
静止画に近い状態で落ち着いて見られるようであれば、ゆっくりした再生速度で見せる。そこから少しずつ通常のスピードに近づけていく。
このように、再生スピードを使って刺激の強さを調整することができます。
見せる時間を短くする。距離を取る。
こうした工夫をしても、しばらく見ているうちに吠えてしまうことがあります。
その場合は、見せる時間を短くしてみましょう。
大切なのは、犬が吠えるまで見せ続けないことです。
慣れの練習では、長く見せることが目的ではありません。吠えずに見られた経験を作ることが目的です。
「できるだけ長く見せる」のではなく、「吠える前に終えられる長さから始める」と考えるとよいでしょう。
また、愛犬にリードを付けて、テレビから距離を取って映像を見せるという形もできるかもしれません。
どのような形が合うか愛犬の反応を見ながら工夫しましょう。
テレビ側の設定を調整する
YouTube側の設定だけでなく、テレビ本体の画面設定も調整できます。
たとえば、画面の明るさを下げたり、色の鮮やかさを抑えたり、シャープネスを弱めたり、映像モードを落ち着いたものにしたりする方法があります。
これによって画面に映る犬の姿が少し穏やかに見えるかもしれません。
ただ、テレビの設定は機種によって違いますし、必ず刺激が小さくなるとは限りません。
刺激を小さくするための選択肢の一つとして考えてください。
少しずつ調整しながら、その子が吠えずに見られる形を探していきます。
刺激を少しずつ上げていく
小さな刺激で落ち着いて見られるようになってきたら、刺激を少しずつ上げていきます。
ここで大切なのは、一度に大きく上げないことです。
刺激を上げるときは、慎重に一つずつ変えていきましょう。
たとえば、まずは音だけ少し入れてみる。そこに慣れてきたら、次は画質を少し上げてみる。そのように、一つずつ確認しながら進めます。
慣れの練習は、急に普通の映像を見せられるようにすることではありません。
その子が吠えずに見られる範囲を、少しずつ広げていく取り組みです。
さいごに
今回は、テレビに映る犬に吠えてしまう子に対して、どのように映像を見せていくかを中心にお話ししました。
もちろん、これが取り組みのすべてではありません。
実際には、愛犬にどのような行動を教えていくのか、どのタイミングで褒めるのか、吠えてしまったときにどう対応するのか、普段テレビを見るときの環境をどう整えるのかなど、他にも考えないといけないことはたくさんあります。
今回お話しした刺激の調整は、取り組みの中で行うことのほんの一つだということをご理解ください。
また、刺激の調整に関しても、どのくらい上げていくのか、どのタイミングで上げるのかは、犬によって違います。
だからその子の反応を見ながら慎重に進めていく必要があるのですね。
テレビに映る犬への吠えは、なかなか難しい問題でもあります。
難しいと感じたら、無理はせず、ぜひ相談してください。



