
散歩中に他の犬を見ると、愛犬が激しく吠えてしまう。
多くの飼い主さんが悩まれている問題だと思います。
散歩中に犬が吠える場面はいろいろとあるのですが、
今回はその中でも、相手を追い払おうとする形の吠え、一般的に警戒吠えと呼ばれる吠えについて書いていきます。
この問題についてよく言われるのが「社会化不足」という説明です。
もちろん子犬の頃の経験が影響していることはあるでしょう。子犬の時期に他の犬と関わる機会が乏しかったり、不快な経験をしたりしていると、成長してから他犬に対して警戒しやすくなることはあります。
子犬の時期の社会化のための取り組みはとても大切です。
ただ、私はこの 散歩中に他の犬に吠えるという問題について、「社会化不足」という言葉だけで話を終わらせるべきではないと考えています。
社会化不足という説明は、問題の背景を語ることはあっても、今何をすればいいかという対応方法を考えるには不十分なことが多いからです。
実際、「社会化不足」という説明が、犬の慣れていない様子を見て「それは社会化不足だからです」と、目の前の状況を別の言葉で言い換えているだけというニュアンスで使われていることもあります。
問題となる行動の原因を説明しているように見えて、実は目の前で起こっていることを別の言葉で言い換えているだけなのであれば、「それではどうすればいいのか」に繋がりにくくなるのは当然です。
そこがあいまいだと、「慣れていないならもっと犬を見せよう」と考えて、無理に多くの犬がいる場所に連れて行ったり、他の犬とあいさつさせようとしたりして、かえって吠えを強めてしまうこともあります。
この記事では、日常のお散歩の中で警戒吠えがどのように悪化していくのかということを中心に書いていきます。
具体的な対応方法を考える前に、ぜひ行動が強まる状況を知っておいてください。
それを知ることができれば、何を避けるべきかが分かり、そこから具体的にどうすればいいのかも見えてきます。
今後の愛犬との向き合い方を考えるために、まずはここから見ていきましょう。
吠えが強まっていく仕組み
動物は、自分が行動した結果、嫌なものがなくなると、その行動を繰り返しやすくなります。
学習理論では、これを負の強化と呼びます。
これは、行動の頻度が増えていく仕組みの一つなのですが、難しく考える必要はありません。
行動したら嫌なことがなくなった。だから次もその行動をしていこう。
という感じに捉えてください。
散歩中の警戒吠えは、この負の強化という学習がとても起こりやすいんです。
たとえば、
散歩中に他の犬が近づいてきて、それに向かって吠える。
すると相手は遠ざかっていく。
愛犬からすると、「吠えたら相手がいなくなった」「吠えて追い払った」という成功体験になり、次も吠えて追い払おうとするようになっていく。
日常の散歩の中でこの経験が繰り返されることで、行動は少しずつ強くなっていきます。
ただすれ違うだけでも、吠えは悪化していくことがあります
もちろん飼い主さんは好きで愛犬に他の犬を追い払わせているわけではありません。
そんなことを望んでいる人はいないでしょう。
でも、普通に散歩しているだけでも、この「吠えたら相手がいなくなった」という形は成立してしまい、警戒吠えが強まっていくことがあるんです。
たとえば、
散歩中に向かいから犬が歩いてくるとしましょう。
愛犬は相手の犬に向かって吠えます。
そこで、「ごんめんなさい」と会釈をしながら、なんとかすれ違います。
こんな場面ってよくありますよね。
でも、たったこれだけで警戒吠えが強まってしまう可能性があるんです。
もう少し具体的に見ていきましょう。
向かいから犬が歩いてきます。
愛犬が相手に向かって吠えます。
愛犬は吠えながら相手の犬とすれ違います。
すれ違った後、相手の犬はそのまま歩き続けどんどん離れていき、やがて見えなくなる。
この状況の中に「吠えたら追い払えた」という形があるのが分かりますか?
相手の犬に逃げる意図はなくても、どんどん離れていき見えなくなるという状況が、
愛犬にとっては「吠えた結果、相手がいなくなった」と映ってしまう可能性があるのですね。
つまり、何か特別な失敗をしたから悪化するのではなく、日常のお散歩の流れそのものの中で、吠えが強まっていくことがあるということです。
こんなにも簡単に吠えが強まってしまう。飼い主さんにとって少し理不尽に感じるところかもしれません。
でも実際には、そういう形で吠えが維持されていることは珍しくないのですね。
横道に避けることが、吠えを強めることがあります
愛犬が他の犬に向かって激しく吠え始めた時、多くの飼い主さんは何とかしてその場を収めようとします。
それは当然のことです。むしろそう動くのが自然でしょう。
愛犬が激しく吠えている時、リードを引いて横道に入る、建物の陰に隠れるといった対応ですね。
ただ、このような対応も警戒吠えを強めてしまうことになるかもしれません。
愛犬は吠えた結果、横道に逃れることで相手が見えなくなったというこの状況。
愛犬からすると、これも「吠えたら相手がいなくなった」と受け取られる可能性が高いんです。
「追い払う」という説明から、相手が逃げていく、相手が離れていく、というイメージを持たれるかもしれませんが、
愛犬が吠えたとき、吠えている自分側が移動して、その結果として相手が見えなくなっても、
「吠えた結果、相手がいなくなった」という成功体験になるのですね。
抱き上げることが、吠えを強めることもあります
小型犬の場合は、相手の犬が近づいてきた時に抱き上げて対応することもよくあります。
相手が見えにくくなり、そのまま吠えやむことも多いので、これも飼い主さんにとっては自然な対応ですね。
ですが、この場合も犬の側では同じような流れが成立しやすくなります。
他の犬に向かって吠える。すると抱き上げられる。抱き上げられたことで相手が見えなくなる。
愛犬からすると、やはり「吠えたら相手がいなくなった」という経験になるわけです。
もちろん、危険を避けるためにその場で抱き上げるしかないことはあります。
ですから、抱き上げること自体を単純に否定したいわけではありません。
ただ、警戒吠えという行動の仕組みを考えると、この対応もまた条件によっては吠えを強める方向に働くことがあるということです。
ここまでの補足として、
「では、吠えても相手がいなくならなければいいのか」と考えて、無理に吠える犬同士を近づけるのは避けたいところです。
それはむしろ悪手になりやすいんですね。
吠えても相手を追い払えない状況では、犬はもっと激しく吠えて何とかしようとすることがあるからです。そしてその過程で攻撃的な行動も出やすくなります。
結果として、警戒吠えをさらに強くしてしまう可能性がありますので、無理はしないでください。
では、どうしたらいいのでしょうか
散歩中の警戒吠えの対応が難しいのは、ただすれ違うだけでも、横道に避けても、抱き上げても、犬の側では「吠えたら相手がいなくなった」という経験が成立しやすいことです。
すれ違うだけでもダメ。
横道に避けてもダメ。
抱き上げてもダメ。
それならどうしたらいいのでしょう。
ここで大切なのは、これらに共通しているのがどれも「吠えた結果、相手が見えなくなる」という状況だということです。
ですからポイントは、吠える前に対応に入るという方向で対応方法を考える必要があるのですね。
あまり気負わないで
ここまで、警戒吠えが日常のお散歩の中でどのように悪化していくのかということを書いてきました。
ただ、「一度も吠えさせてはいけないんだ」というように重く受け止める必要はありません。
散歩の途中で愛犬が吠えてしまい、「また失敗してしまった」というように落ち込む必要もありません。
そこまで気負わないでください。
散歩中に激しく吠えてしまう犬は、とても過敏に反応するようになっています。
犬はそういう状態に陥っているんです。
だから、すぐに吠えてしまい飼い主さんが対応に間に合わないこともあるでしょう。
曲がり角で他の犬と鉢合わせになって激しく吠えてしまうこともあるでしょう。
理解しておいていただきたいことは、
警戒吠えは、一度吠えてしまったらそれですべてが決まってしまうようなものではありません。
日常の中で同じ流れが何度も繰り返されることで、少しずつ強まっていくことが多いんです。
ですから、たまたまうまくいかなかったその一回ごとに深く落ち込む必要はありません。
大切なのは、完璧に一度も吠えさせないことではなく、警戒吠えが強まりやすい状況を知り、その流れを少しずつ減らしていくことです。
「今日はここが難しかったな」「次はこうしてみよう」と考えながら少しずつ整えていけば大丈夫です。
焦らず進めていきましょう。
今回のお話は一旦ここまでとさせていただきます。
次回からは、じゃあどうすればいいのか、ということをテーマに具体的な方法を考えていきます。
もしよければぜひ読んでください。


